初☆体☆験

渋谷駅近くでふと目に留まった看板につられて、裏通りにある地下の店舗に入った。入り口でいきなり茶が出てくるというお迎えも斬新なそのお店は、ネコのオブジェが玄関に鎮座しており妖しい雰囲気を醸し出している。女性スタッフが出迎えてくれた。カーテンで仕切られた個室と通路は客同士が鉢合わせにならないよう、気配りがされている。2〜3分待ったあとカーテンで区切られた個室に通された。服を脱ぎ、薄く流れるBGMに耳を傾ける。周囲の音を聞くかぎり、他の客はいないようだ。やがて一人の女性がやってくる。女性の手が動き始めると、他の客がいないと分かっていても、声にならない声が出てしまう。
「オキャクサン、ハジメテ?」
「ええ、まあ」
「緊張シナクテイイヨ」
「うん、緊張はしてないよ。初めてだからくすぐったくて」
「クスグッタイ? スグナレルネ。ソシタラ気持チイイカラ」
中国の瀋陽からやってきたという27歳のその女性は慣れた手つき身体に手を這わせていく。
「オキャクサン、結婚シテルノ?」
「なんで? してないよ」
結婚してない理由なんか腐るほどあるけど、適当な理由で自分がなぜ独身かをかいつまんで話した。
「ソウナノ? イマ中国モ晩婚ノ人増エテルヨ」
「へ〜。でも中国って景気いいんじゃないの?」
「昔ニ比ベルト給料ハ2〜3倍ニナッタヨ」
「いいじゃん」
「デモ物価モ2〜3倍ニナッタヨ」
「意味ないじゃん(笑)」
むしろ意味がないのは僕らの会話だろう。中国経済のことなんか正直、どうでもいいシチュエーションだ。やがて話題は再び結婚へ。
「デモ、オ客サン若イカラ、キット結婚デキルネ」
「そんなことないよ。最近ブクブク太ってるし。もうオッサンだよ」
「イマ晩婚ノ人多イカラ、35歳デモ大丈夫ヨ」
「まあ、よくそういう話は聞くけどねぇ。おねえさんはどうなの?」
「ワタシ、マダ結婚シテナイヨ」
このあと朝5時まで働いているという。あまりの快楽に途中で声が出そうになるのをグッとこらえながらの会話は、正直しんどい。クライマックスはだんだんと近づいていた。
「ワタシノ母ガ結婚ニツイテ占ッテクレタンデス」
「へ〜、どうだったの?」
「ネズミ年ノ人ト結婚シナサイッテ」
「ずいぶんアバウトな占いだね(笑)。じゃあ年男の人と結婚するといいんだね」
「ソウミタイネ。デモ、年男ッテ36歳ネ。36歳ニモナッテ独身ノ人ッテ、絶対ニ何カ問題ガアルト思ウンデス。ワタシハ嫌デスネ」
「……おい、さっき晩婚の人が多いから35歳でも大丈夫って言わなかったか?(笑)」
そこで会話は途切れたまま、最後まで彼女は無言のまま制限時間が終了した。

というわけで、初めてのアロマオイル・マッサージでした。アジアっぽい超適当な会話と、背中に独特のオイルを塗ったくってコリを揉みつぶすのは初体験だったけど、これはクセになる! 手で揉んだあと、背中に正座してヒザでダメ押しするのは結構効いたなぁ。精神的に余裕のあるときにゆっくり行きたいかも。