美の呪力 - 岡本太郎


太郎の根源的な部分を見つめる視線がダイレクトに反映された
批評で、扱ってるのも北極圏カナダのイヌクシュク、
キリストの宗教画からメキシコの生贄習慣にまたがる血の描写、
アフリカ原住民の仮面、祭りとしての火、ゴッホの描く夜、
あやとりから宇宙を……といった具合で縦横無尽。

地球上に存在するあらゆる芸術の点と点を結んで線を描くのだが
恐山の地獄巡りの“おがさま”の積んだそばからすぐに崩れる
石積みについての考察部分に一番ハッとさせられた。
それはたぶん、この本が芸術批評でありながら
同時に現代社会批評になっているからだろう。

今日、近代人は人生には目的があり、
それに向かって生きていると信じている。
社会全体がそういうモラルだ。
しかしそれでいて、みな目的、生きがいを
見失って、徹底的に空虚になっている。
不幸な精神状況だ。
石を積むなんて馬鹿馬鹿しい俗習であり
迷信だと軽蔑するインテリども。
しかし無意識にこの習慣をくりかえす人たちの方が
はるかに時間の流れ、歴史の深みを体現しているのだ。

「be TARO」とか気楽に言えないよ。なれんのか?って。